大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10358号 判決 1986年1月28日

原告 東洋運輸倉庫株式会社

右代表者代表取締役 柏村省一

右訴訟代理人弁護士 水谷昭

同 松本美恵子

右訴訟復代理人弁護士 関根靖弘

被告 大同生命保険相互会社

右代表者代表取締役 福本栄治

右訴訟代理人弁護士 斎藤和雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一億五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は株式会社である。

2  原告は、被告との間で、昭和五六年七月一日、保険者を被告、被保険者を亡小貫武文(以下「小貫」という。)、受取人を原告、死亡保険金を一億五〇〇〇万円、保険料を月額一四万八五〇〇円、保険事故が発生した場合受取人の催告の翌日から五日以内に保険金の支払をなす旨の生命保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。

3  小貫は、昭和五七年五月一七日、肺癌により、死亡した。

4  原告は、被告に対し、昭和五八年四月一日到達の書面で保険金の支払を催告した。

よって、原告は、被告に対し、保険契約に基づき保険金一億五〇〇〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五八年四月七日以降支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び3の事実は認める。

2  同2の事実のうち、保険金の支払時期の点は明らかに争わず、その余の点は認める。

3  同4の事実は明らかに争わない。

三  抗弁(告知義務違反による解除)

1  小貫は、昭和五六年四月の定期健康診断において肺結核であると告げられたので、昭和五六年五月一日、関東逓信病院呼吸器科において胸部レントゲン写真の撮影を受けたところ、右下肺野に結節状陰影が認められた。そして、小貫は、同月七日、同病院の田島玄医師(以下「田島医師」という。)から右レントゲン写真に異常があることを説明され、したがって入院精査の必要があることを説得された結果、同月二〇日からの同病院への入院予約をした。

2  ところが、小貫は、同人が原告代表者として本件保険契約の申込みをした翌日である同月一四日、被告診査医の診査を受けた際、告知書に基づき「現在の健康状態」について、からだに具合いの悪いところがあるかどうか、病気や外傷で診察・検査・治療を受けているかどうか、病気や外傷で診察・治療・検査、入院・手術をすすめられているかどうか、また「過去一年以内の健康診断」について、心電図・眼底・肝機能・腎機能・血液・X線・人間ドックの検査を受けた際に、異常を指摘されたり、注意をされたりしたかどうかの質問をされた際、いずれも「無」と回答した。

小貫は右各質問に対して「有」の回答をすべき状態にあったものであり、もし「有」の回答がなされたならば被告は本件保険契約を締結することはしなかった。

したがって、小貫は、本件保険契約を締結するについて重要な事実につき事実を告げなかったものであり、右告知義務違反は原告代表者の悪意又は重過失によるものである。

3  小貫は、昭和五六年五月二〇日、関東逓信病院呼吸器科に入院し、検査の結果、同月二二日の細胞診で腺癌の疑いがもたれ、同年六月二日の開胸手術で腺癌と判明し、直ちに右肺下葉切除の手術を受けたが、同年一一月、肋骨に癌の転移が認められ、翌五七年四月二八日、同病院消化器外科に入院したのち、死亡した。

4  被告は、原告に対して、昭和五七年八月二四日到達の書面で本件保険契約を解除する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、小貫が昭和五六年四月ころ定期健康診断を受けたこと、胸部レントゲン写真の撮影を受けたこと、同年五月七日関東逓信病院田島医師から精密検査のため入院を勧められたこと、同月二〇日の入院を予約したことはいずれも認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実のうち、小貫が昭和五六年五月一四日に被告診査医の診査を受けたことは認めるが、告知書についてした小貫の回答は知らない。その余は否認する。

なお、仮に告知義務違反の事実が存在したとしても、告知すべきであったとされる事実は肺結核及び入院予約をした点であるところ、小貫の死亡原因は肺癌であって、告知義務違反と死亡原因との間に因果関係がない。

3  同3及び同4の事実は認める。

五  再抗弁

1  被告の過失

被告は、本件保険契約締結に際し、保険金が高額であること、小貫が当時五〇代で癌などの成人病の対象年令であることを考慮して、胸部レントゲン検査、血沈、喀痰検査、肺機能検査などの比較的安価、簡易な検査を小貫に対して行うべきであったし、これを行えば小貫の健康状態を知ることができたのに、被告は、心電図検査、肝機能検査、血液検査をしながら、前記各検査についてはこれを怠ったのであり、被告には小貫の告知義務の対象となる事実の存在に気づかなかった過失がある。

2  解除権行使期間の経過

(一) 本件保険契約の解除事由の調査は訴外大同リサーチ株式会社が行い、同社は、昭和五七年七月一五日、田島医師から診療証明書を受領した時点で解除原因の存在を認識した。

右大同リサーチ株式会社は、被告の保険調査のためにのみ設立された被告の一〇〇パーセント出資による子会社であり、役員及び従業員はすべて被告の出身者又は出向者である。

このように関連共同性が存する場合には、右大同リサーチ株式会社が解除原因を認識した時点を基準として、被告は責任を負うべきである。

(二) 右日時から一か月が経過した。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の主張は争う。ただし、被告が小貫について心電図検査と肝機能に関する血液検査をしたこと及び原告主張の検査がなされていないことは認める。

2  同2(一)につき、被告が昭和五七年七月一五日に解除原因の存在を知ったとの点は、否認する。

七  再抗弁1に対する間接反証

1  被告診査医が、小貫に対し、告知書に基づいて質問をしたところ、いずれも「無」との回答であったことは前記三2のとおりである。

2  被告診査医は、右の際、小貫の身長・体重・腹囲・脈拍数・脈性・血圧値について検診をしたが、これらの視診・問診・聴診・打診・触診・測診・血圧測定の結果、異常はなく、尿検査も実施したが、異常はなかった。

3  被告診査医は、更に、本件保険金額が高額であること及び被保険者が五〇才以上であることから、被告の基準に従い、心電図を撮影したが、結果は正常であった。

また、被告診査医は、右保険金額及び被保険者の年令を考慮して、自己の判断で肝機能検査をしたが、結果はほぼ正常であった。

4  被告においては、レントゲン写真は原則として撮影しないが、体況により撮影をするものとしている。小貫については、体況に異常が認められず、かつ関連のある告知もなかったので、レントゲン写真を撮影する必要を認めなかったものである。

八  間接反証に対する認否

1  被告主張の2の事実は知らない。

2  同3の事実のうち、各検査をしたこと以外の事実は知らない。

3  同4の事実は知らない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

原被告間に、昭和五六年七月一日、請求原因2のとおり(ただし、保険金の支払時期に関する事実を除く。)の生命保険契約が成立した事実は当事者間に争いがなく、右保険契約における被保険者であった小貫が昭和五七年五月一七日肺癌により死亡した事実も、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  小貫が、昭和五六年四月ころ、定期健康診断を受けたこと、更に、同年五月一日、関東逓信病院呼吸器科において胸部レントゲン写真の撮影を受けたこと、同人が同年五月七日、同病院田島医師から精密検査のため入院を勧められたこと、その結果、同月二〇日の入院を予約したことはいずれも当事者間に争いがない。

また、抗弁3の事実、すなわち、小貫が同年五月二〇日関東逓信病院に入院し、検査の結果、同月二二日の細胞診で腺癌の疑いをもたれ、同年六月二日の開胸手術により腺癌と判明し、その後癌の転移が生じて、翌五七年四月二八日再入院ののち死亡に至ったことも、当事者間に争いがない。

2  そこで、昭和五六年五月一四日、小貫が被告診査医の診査を受けた時点において、同人がどのような病状にあり、かつ同人が自己の病状についてどのような認識を有していたかについて判断する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

小貫は、昭和五六年四月二一日、関東逓信病院において消化器外科部長斉藤洸のもとで健康診断を受けたところ、胸部レントゲン写真撮影により右肺に肺腫瘍と疑われる異常所見が発見されたので、同月二八日、斉藤医師は、小貫に、胸部レントゲン写真撮影の結果によれば呼吸器科で精密診断を受ける必要があることを告げ、同人を同病院呼吸器科に紹介した。

同年五月一日、小貫は、同病院呼吸器科部長堀江の診察を受けた。

堀江医師は、喀痰の細胞診検査、気管支造影、気管支鏡の各検査を実施する方針をたて、同日喀痰の細胞診検査及び気管支造影によるレントゲン写真撮影を行ったところ、前者の結果では異常はなかったが、後者の結果では右下葉気管支に閉塞があり、気管支の壁も不正でS八の部位に肺癌の存在が診断され、同月六日及び七日の細胞診検査では中型ないし大型の癌細胞の塊が存在することが確認された。

そこで、同医師は、手術のため入院の必要ありと判断し、同月七日、小貫に対し、早急に同病院に入院するよう勧告する一方、直ちに同病院呼吸器科胸部外科田島玄医師に連絡して、入院の手配を整えた。

このような経過の中で、小貫は、五月一日同病院呼吸器科において、質問用紙に記載したが、その際、自覚症状として、同年四月六日ころから咳があり、喀痰は黄色で、就寝中発汗がある旨を記載している。

また、堀江医師は、同月一一日の細胞診検査の結果、腺癌と推定した。

同医師から連絡を受けた田島医師は、小貫が直ちに入院するものと予期したが、その予期に反して、小貫の入院は遅れ、前記1のとおり、同月二〇日に入院した。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》。

しかして、小貫が堀江医師から自己の病名についてどのような告知を受けたかについて、証人小貫より子は、同年五月七日には、精密検査のため入院するようすすめられただけで、病名の告知はなかった旨の証言をするけれども《証拠省略》によれば、今日の医師は、胸部疾患に関しては胸部レントゲン写真を患者に示して病状の説明をするのが通例であること、その場合にも、肺癌については真実の病名を告知することを避け、肺結核の疑いと告げるのが一般であること、関東逓信病院においても右のような各取扱いがなされていることを認めることができるから、この事実によれば、堀江医師による入院勧告に際し、同医師が小貫に対し肺結核の疑いを告げた可能性は少くないと思われるけれども、前認定の事実を考え合わせると、少くとも、精密検査のためとして入院検査を慫慂したというようなものではなく、右肺に異常部位が存在することを明らかにして入院を勧告したものであり、小貫は、同年五月七日には、肺に疾病が存在する疑いが濃厚であり、その診断及び治療のために入院が必要であると認識したことを推認するに十分である。

3  抗弁2(告知義務違反)の事実について判断するに、小貫が昭和五六年五月一四日被告診査医の診査を受けた事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、小貫は、原告の代表者として、同年五月一三日、被告に対し、契約申込書により被告の普通保険約款を承知のうえで本件保険契約締結の申込みをしたこと、右約款第六条においては、被告が被保険者についての質問事項を記載した書面によって告知義務該当事項についての告知を求め、契約者又は被保険者は右書面によって告知すべく、被告の指定医が被保険者の診断を行う場合には医師が質問事項を記載した書面に基づいて質問をし、契約者又は被保険者は医師に対して告知したうえ、その書面に記入された内容を確認すべき旨が規定されていること、右契約申込書において、原告は、別紙告知書に記載の事項は事実と相違ないことを誓約していること、小貫は、翌一四日右診査医の診査を受けた際、告知書により質問事項への回答を求められ、その回答欄の3には「からだにぐあいの悪いところがありますか。病気や外傷で診察・検査・治療を受けていますか。病気や外傷のため診察・治療・検査・入院・手術をすすめられていますか。」、同じく6には「(過去一年以内に)下記の検査を受けるようにすすめられたことがありますか。下記の検査を受けた場合に、異常を指摘されたり、注意をされたことがありますか(((中略))X線・人間ドック)。」との質問事項が記載されており、これらの質問に対して「有」の欄を○で囲んだ場合には、傷病名、症状名、発見・検査年月、治療・検査機関、医師名、症状、受診理由、検査理由、経過、治療・検査結果、注意内容などの詳細を更に記載するよう求められていたにもかかわらず、小貫は回答欄1ないし7のすべてにつき「無」の欄を○で囲んだうえ、この書面に小貫が記入した事項及びこの書面に基づく診査医の質問に対して回答した事項は事実に相違ないことを証明して自署したことが認められる。

ところで、商法六七八条一項の「重要ナル事実」及び「重要ナル事項」とは、保険者がその契約における被保険者の生命の危険性を測定しこれを引き受けるべきか否か及びその保険料率をどのように定めるかを判断するに際してその合理的判断に影響を及ぼすべき事実をいうものであるところ、さきに判示の胸部レントゲン写真に異常が存在すること、肺に疾病が存在する可能性があること及び医師から入院を勧告されて入院の予約をしたことは、胸部に重大な疾患が存在する可能性を示唆するものとして、保険者の右判断に影響を及ぼすものであり、告知義務の対象となる重要な事実に相当するということができる。

しかるところ、小貫が右各事実を認識しながら、被告診査医に対して質問事項につきいずれも「無」の回答をし、右各事実についてなんらの告知をしなかったことはさきに判示したとおりであるから、保険契約者である原告及び被保険者である小貫は、いずれも悪意により重要な事項について真実でないことを告げたものといわなければならない。

三  再抗弁(解除権不発生)について

1  再抗弁1(被告の過失)について判断するに、被告診査医が昭和五六年五月一四日小貫を診査した際、心電図検査及び肝機能に関する血液検査をしたが、胸部レントゲン写真撮影、喀痰検査及び肺機能検査などをしなかったことは当事者間に争いがない。

そして、原告は、本件保険金額が高額で、被保険者は成人病多発年代にあり、右各検査は安価簡易であったから、小貫に対して右各検査をしなかった被告には過失があると主張する。

しかしながら、商法六七八条一項但書にいう過失とは、保険契約者が告知義務違反をしたにかかわらず、取引上における衡平の観点からみて保険者を保護することが相当でないと考えられるような保険者の不注意を指すのであるから、保険者に過失なしとするには、医師が診断に使用するすべての検査を尽くすことを要するものではなく、告知の有無及びその内容程度に従い、通常容易に右の重要な事実を発見することができる程度の注意を保険者が払えば足りると解するのが相当である。

そこで、本件について検討するに、《証拠省略》によれば、被告診査医羽田正一は、前記のとおり小貫を診査した際、前記告知書に基づき、小貫に対し、過去及び現在の健康状態、過去一年以内の健康診断結果などを中心とする問診をし、異常がないことを確認したうえ、身長・体重・胸囲・腹囲・脈拍数・脈性・血圧値を調べ、更に打聴診・触診・視診により、黄疽・貧血・浮腫・甲状腺腫・リンパ節腫脹の存否、胸部・腹部・心音の異常の存否、精神神経系・感覚器・運動器の異常の存否を調べ、それらのいずれにも問題がなかったので、保険金額及び被保険者の年令に応じて被告が社内の規準で定めている心電図検査及び全例で実施の尿検査を行い、かつ社内の規準で必要とはされていないが、保険金額及び被保険者の年令を考慮して、肝機能検査を行って、検診を終了した事実が認められる。

このような被告診査医のした診査に照らすと、もし小貫が胸部レントゲン写真で異常が存在すること、肺に疾病が存在する可能性があること及び医師に入院を勧告されて入院予約をしたことのいずれか一つでも告知したとすれば、被告診査医は胸部レントゲン写真撮影やその他の検査方法を用いて、小貫の生命に潜む危険の発見に努めたはずであり、被告診査医がそれらをしなかったのは、小貫が右の告知をしなかったこと及び被告診査医がした各診察及び検査によっては格別異常が発見されなかったことによることが明らかである。

そうすると、被告診査医が原告主張の各検査をしなかったことを目して被告が前述の意味における注意義務を果たしていないということはできず、再抗弁1は理由がない。

2  原告は、告知義務違反の事実と小貫の死亡原因との間に因果関係がないと主張する。

しかしながら、告知義務違反となるのは、既に判示したとおり、胸部レントゲン写真で異常が存在すること、肺に疾病が存在する可能性があること及び医師に入院を勧告されて入院予約をしたことを告げなかったことであり、これを告げたとすれば、被告診査医は胸部レントゲン写真の撮影など相応の検査を実施したであろうことは前述のとおりであるところ、《証拠省略》によれば、昭和五六年四月二一日撮影の胸部レントゲン写真の異常所見は、一見して肺腫瘍と推断されるほどのものであったことが認められるから、前記告知がなされたとすれば肺癌の確定診断に至ったことは確実であり、本件告知義務違反がなければ、被告が本件保険契約を締結することもなかったものといわなければならない。

したがって、原告の前記主張は失当である。

四  契約解除権の行使

抗弁2の事実は当事者間に争いがない。

五  再抗弁(解除権行使期間の経過)について

再抗弁2(解除権行使期間の経過)について判断するに、商法六七八条二項、六四四条二項にいう「保険者カ解除ノ原因ヲ知リタル」とは、保険者が単に保険契約の解除原因の存在につき疑いを持ったのみでは足りず、告知義務違反の客観的事実について具体的な根拠に基づいてこれを知ることを意味すると解すべきである。

そして、《証拠省略》を総合すると、被告は、昭和五七年七月一〇日ころ、原告から提出された保険金支払請求書に添付された小貫の死亡診断書に「手術年月日昭和五六年六月二日」「手術所見右肺癌リンパ節転移」「前診療医関東逓信病院呼吸器科田島先生」との記載があったことから本件保険契約締結の際に小貫に告知義務違反があったとの疑いを抱き、同年七月一四日ころ、被告の子会社である大同リサーチ株式会社に右告知義務違反の事実の存否についての調査を依頼したこと、同年七月三〇日、大同リサーチ株式会社から被告に調査報告書が届き、右報告書には、小貫に告知義務違反の事実があったことを結論づける調査内容が記載されていたほか、右事実を裏づける資料として関東逓信病院呼吸器科田島玄医師作成の診療証明書が添付されていたことが認められるから、右事実によれば、被告は、昭和五七年七月三〇日に、原告及び小貫の告知義務違反の事実を知ったものということができる。

原告は、右大同リサーチ株式会社が認識した時点をもって被告が認識した時点とみるべきものと主張するところ、大同リサーチ株式会社が被告及びその系列会社による一〇〇パーセント出資の子会社であり、被告にかかる保険契約に関して契約調査及び支払調査を代行することを事業目的としていること、その役員及び従業員はすべて被告からの出向者又は被告の出身者であることは《証拠省略》によって認められるけれども、両社間に右のような密接な関係があるというだけの理由で、それぞれ独立の法人格を有し、社会的に各別の企業活動を営む両者を、法律上同一視することはできないから、大同リサーチ株式会社が原告及び小貫の本件告知義務違反の事実を知ったことをもって、ただちに被告がこれを知ったものと同視することはできないというべきである。

そうすると、原告の解除権行使期間の経過の再抗弁は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

四  以上によれば、本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲守孝夫 裁判官 川勝隆之 黒津英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例